私たちの使命は、お客様の想いを空間に具現化することです。
その過程で、空間の印象を大きく左右する「素材選び」は、
設計者としての判断力が問われる場面でもあります。
例えば、お客様から「天井を木目にしたい」
というご要望を頂いたとします。

一見シンプルなこのリクエストに対し、
私たちは複数の選択肢を持っています。
本物の木を用いた突板仕上げ。
リアルな見た目を追求した塩ビ化粧シート。
その中間グレードに位置する機能性シート。
そして最もリーズナブルなビニールクロス。
これらの素材は特徴や質感、耐久性がそれぞれ異なり、
もちろんコストも大きく違ってきます。
突板とビニールクロスでは、10倍以上の価格差が生じることも珍しくありません。
さらに、建築基準法や消防法などの内装制限も考慮しなければなりません。

一方で、お客様はそれぞれの素材が持つ特性や価格帯、
施工性や経年変化などの知識を持っていない場合がほとんどです。
つまり、素材選びの主導権は設計者である私たちにあるのです。
たとえ何種類ものサンプルをご用意して、お客様に選んで頂いたように見えても、
そのサンプルをどこまで、どのように用意するかを決めるのは、設計者です。
また、設計者が知り得ない、もっと適した素材を見落としている可能性もあるのです。
と言うよりも、この世界の全ての素材知識を有する設計者はいないでしょう。
ここに、私たちが常に自覚すべき「設計者としての責任」があります。
お客様が費用を出し、お客様の空間を創るにも関わらず、
私たちの知識不足や思い込みによって、
お客様の選択肢を知らず知らずのうちに狭めてしまっている可能性。
この現実に、私たちは深い注意を払う必要があります。
だからこそ設計者はプロとして、常に素材や技術の情報にアンテナを張り、
誠実に業務に向き合う責任があります。
その上で、お客様が本当に大切にしている価値を見極めながら、
「こだわるべき場所には本物を。そうでない部分は賢く抑える」という
適材適所の視点をもって提案すべきです。
その姿勢が、お客様の望む最適な品質と満足度を両立した
お客様のための空間を生み出す礎になると信じています。
